吸血鬼の翼
「触れちゃダメな事なんだな」
イルトは少し考えて、ルイノにそう答えた。
ルイノ自身、動揺している様に見えたのでその本を彼からそろりと取り出した。
「……待って!」
その本を棚に戻そうとした時にルイノはイルトの行動を制止する為に声を発した。
「何だ?」
「…その本にはね、異世界へ繋ぐ魔術が記述してあるんだよ。」
「…異世界。」
先刻聞いた"もう1つの世界"という本のタイトルと一致した言葉なのだとイルトはそう確信した。
「そんな事出来るのか?」
「分からない…けど、少なくてもこれをやった人はいたんだ。」
「…誰だ?」
そこまでルイノが喋ってくれたので、イルトはとりあえず聞いてみる事にした。
「……僕の祖父だよ。」
「おじいさんが…」
額から汗を流して、イルトは手を戦慄かせながらそう口にする。
自分の知らない別の世界が存在するのだと思うと、恐怖や不安とも言い難い妙な気持ちが感情を支配した。
ルイノは少年に返事をする為、口を開く。
「でも、それは…」
「?」
丁度その時、朝の鐘が礼拝堂付近に響き渡る。
「きっと、今頃ラゼキ達も起きてる行こう!」
イルトはハッと我に返ってルイノが続きを言おうとするのを自分の言葉で塞ぐ。
「………うん…そうだね。」
ルイノの異変を取り払う為、イルトは強引にでも彼の手首を掴んで、封印するかの様に魔術書を書架の奥に押し込めて書庫を後にした。