吸血鬼の翼




「さみぃ~!!」

大声を上げながら、震える肩を掌で擦りラゼキに不満の眼差しを送る。
そんなソウヒに構わずに剥した毛布をイルトに渡す。
どうやら、ラゼキはまだ寝起きで機嫌が悪いらしい。

「まだ寝たりない」

子供みたいに駄々を捏ねて、ソウヒは寝台から離れようとしない。全く起こすのにも一苦労する。

「お前な、昨日は早く寝てたやろが!」

「それはそうだけど、眠いものは眠いんだ!」

諄(くど)く、寝たいと主張するソウヒにラゼキの機嫌の悪さが絶頂を迎え、言い争いが始まった。
こうなると、長くなるんだよなぁとイルトは苦笑するしかない。

そんな諦めの悪いソウヒは自分を叱るラゼキを尻目に、毛布を持っているイルトに懇願する様な表情で見つめた。
それはもう、犬が主人に甘えるみたいな目をする。

だがそれも日常的な事でイルトには通用しない。妙な罪悪感はあるけども。

「…ソウヒ、諦めろ。」

「………ううっ」

イルトは茶褐色の目を逸らすと漸く観念したらしく、苦虫を噛んだ表情を浮かべて沈黙する。

「取りあえず、服に着替えろよ。」

「あいよ。」

そう言うと、渋々とソウヒは寝台から起き上がり朝の準備に取り掛かる。
ラゼキは既に着替えていて、寝台に腰を下ろしている。

心地良い居場所─

相変わらずの日常と光景にイルトは改めて喜びを感じていた。


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