吸血鬼の翼



「そういえばよ、今思い出したんだけど知ってるか?」

「何だ?」

そんなラゼキを余所にソウヒは朝食を終えるとまだ食事中の3人に話し掛けた。
いつもの陽気な彼とは違いどこか影のある素振りでイルトは妙な感覚に捕らわれたが取り敢えず、相槌を打った。

「まぁ、噂らしいんだけど…」

ソウヒは珍しく躊躇いながら、頬を人差し指で軽く掻く。
そんな彼の態度に焦燥感に駆られながらも、黙って聞き流した。
ラゼキやルイノも静かに耳を傾けている。

「…最近、シピグ国の村で人々が行方不明になってるらしいんだ。」

「シピグ国って隣りの国やんか。それに行方不明って、ホンマに噂なんか!?」

ラゼキは声を少し荒げながら、話の先を促す。
手に持っていたカップは音を発てながらテーブルに置かれた。ルイノは何も喋らず、ただ黙って聞いている。

「ん、人が消えたのを見た人はいないからさ…何とも言えないんだがよ」

段々と噂の核へ迫っているのが、ソウヒの眉間の皺が刻まれるのを通して分かる。
イルトはラゼキの肩を宥める様に手を置いた。

「ただ、行方不明になった村の周辺には血の匂いがするらしい。」

イルトは“血の匂い”の言葉を耳にすると酷い胸騒ぎを感じ始めた。
ザワザワと自分の身体中から湧き上がる寒気と眩暈。

何故かは分からない─

分からないけど、身体が心が本能が厭に反応してしまう。
そんな彼の様子にルイノはいち早く気が付き、口には出してはないが、大丈夫だよと言う様にイルトの震える手に手を重ねる。

「その事から半獣人がやったって噂が流れてるんだってさ。」

「一概には言えないけどね。証拠もないんでしょう?」

この噂を話してから初めて口を開いたルイノは少し強張った表情を浮かべている。
その問いにソウヒはだから噂なんだと頷く。
ラゼキは何処か腑に落ちない様子でカップを口にしていた。


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