吸血鬼の翼
迫る影【過去編③】
不意に開かれた扉を一瞬、ルイノは呆気に取られて見ていた。イクシスは何の驚きもなく、寧ろ不愉快そうに眉間に皺を寄せてソウヒを睨みつける。
ソウヒはそんな2人の様子等、お構いなしに前進して来た。
「ルイノっちょっと良いか?」
「え?」
いきなり、両肩を掴まれたルイノはどういった事か分からず、キョトンとしている。
すると、ふいにソウヒは足を払われた。
「テェッ!何だっ!?」
床に尻餅をついたソウヒは痛そうにぶつけた部分を手で擦る。
閉じていた瞼を開くと目の前には薄紫の服を来た少年が眠そうに手を左右に振っていた。
その視線に気が付いたのか、イクシスは蒼い瞳にソウヒを映すとゆっくり口を開く。
「……ルイノに近寄るな、単純バカ。」
「んなっ」
「まぁまぁ、ソウヒ落ち着いて…」
イクシスの誹謗にソウヒは一瞬、ムッとしたが同時に大人気ない事をしていると気付く。
それにルイノに制止させられたので、本題を思い出した。
「そうだ、ルイノ!聞きたい事があるんだけどっ」
「うん?」
先程、イクシスから足払いを受けたのでルイノと少しだけ距離を取る。
「…リリアから聞いたんだが、軍人がイルトを探してるって」
「…え。」
ソウヒから放たれた予想外な言葉に思わず、ルイノは絶句する。
そういった者からなるべく、あの子を遠ざけていたのに。
何故、知っている?
軍人にイルトを渡せば、どうなるか一目瞭然だった。
「どんな感じだった?」
黙っていたルイノの代わりにイクシスはソウヒにその人物について尋ねる。
「え~と、黒い服の…」
ソウヒは少し言葉に詰まりながら、頬を掻き、視線を上に向けた。
その反応にイクシスは眉間の皺を更に刻み、口を開く。
「…他には?何かないの、複数で動いてた様子だったとか。」
「ははっ聞くの、忘れちまった。…多分、単独だと思うけど…」
イクシスに押され、何も答えられなくなったソウヒは苦笑して誤魔化す。
そんな彼にイクシスは立ち上がり無表情で拳を作る。
「…ちょっと、殴らせて。」
「イクシス…」
一歩前に進んだイクシスにルイノは慌てて、止めに入った。
この子が暴走すると色々、大変だ。