吸血鬼の翼
“この世界”―。
一体どういう意味?
その事ばかりが気になり、美月は視界を下に落とす。
イルトは何も言わなくなった美月に気付き、体を起こして此方に寄って来た。
「どうしたんだ?」
「…ううん、何でもない。」
そう言うとイルトは首を傾け、不思議そう美月を見る。
美月は適当に返事をして先を促した。
本当なら彼に聞いた方が早いんだけど。
何故か聞きづらかった。
『イルト』という存在も十分と言う程、不思議なのに。
何故なら彼は吸血鬼なのだから…。
その事実もこの目で見た訳だし―。
そしてそれ以上に彼の言動が気になる。
現実逃避した話なのかどうなのか思考はその事で一杯になった。
気付けば日が暮れるまで土手にいた―。
そんな事を思った所で明確な答えは出て来ない。
それに切りがないので、帰路に向かって歩き始めた。
暫く歩いているとあの公園が見えて来る。
イルトと出会ったあの場所。
日はあまり経ってはいないし彼の事も知らない。
「ミヅキ…?」
「ごめん…、疲れてて」
「そうか…」
無意識の内にまた考え込んでしまった美月の耳にイルトの声が掛かって来た。
イルトは心配そうに美月を見た後、目を伏し目がちにして地面を見ている。
イルトにこれ以上心配掛けるのも気が引けたので考える事は止めにした。