吸血鬼の翼
淡い月明かりに照らされた礼拝堂は静寂に包まれている。
一片の穢れもなく、邪気の入る隙間もない、その空間は実に神秘的なもの。
そこにルイノは祭壇の前に両手を組み、両膝を立てて祈っていた。
この数年、守って来た。
ずっとあの子が悲しまない様に傍にいたつもりだ。
それは、これからも続けていく事だと思っているし、続けていきたいと願っている。
だから今、自分に出来る事は何でもしよう…
それが、例え前途多難の道であったとしても。
祈りが強さを増すのに比例して、ルイノの両手は魔法陣に使う文字が濃く浮き上がっていた。
それは微量の光、丁度月明かりくらいの淡さを宿し、ルイノを包んでいく。
「…どうか、あの子達に神の御加護を。」
瞳を閉じたルイノの声は礼拝堂に静かに響き渡った。
* * *
満月の夜、寝静まった街の外灯は道を淡く照らしていた。
それは次第に不自然に揺らめきながら、順序に並んだ灯りは消えていく。
「ククッ…」
消えた外灯の下に居た男は賎しく笑い、丘を見上げる。
町の上空を周りながら、飛んでいた半獣人が男の隣へ舞い降りた。
「…ついにやるんだな。」
男を一瞥した後、半獣人も丘へと視線を向ける。
いつの間にか、男と半獣人の周りには複数の半獣人が囲む様にして立っていた。
「お楽しみはコレカラだよ…」
男はそう言うと、コツコツとブーツを鳴らしながら暗闇へと足を進めた。