ラストボーイ
愁ちゃんが先を歩くのはやっぱり最初だけ。
別にあたしが走ってる訳でもないし、
歩く速度を変えた訳でもない。
後ろにも目付いてるの?って思う位だもん。
愁ちゃんの家はあたしの家から5分で割と近い。
あたしの家とは真逆だけど、
愁ちゃんが日本に帰ってきてから、
あたしは毎日愁ちゃんに見送られて家に入る。
「また明日な」
「・・・礼ちゃんと勇志くんにちゃんと話せるかな。」
明日嫌でも二人に会わなきゃいけない。
会って謝りたい気持ちがあるのに、なぜか怖くなっちゃうの。
嫌われるんじゃないかって。
「大丈夫。俺もいるじゃん」
あたしの頭を小突く愁ちゃん。
愁ちゃんが優しく笑うからあたしも自然と笑が溢れて、
あたしが玄関の扉を閉めるまで愁ちゃんは見送ってくれた。
「おかえり。」
「ただいま!」
部屋には今日の夕飯の香り。
今日はハンバーグかな・・・??
「芽生~?先にシャワーしちゃいなさいね~」
「はぁ~い」
二階の自分の部屋に荷物をドサッと置いて、
ベットに倒れ込むあたしは今日1日の出来事を1から思い出した。
"また話そうね?芽生ちゃん"
先輩の言葉が引っかかる。
またって・・・また何かあるの?
んーんっ!大丈夫っ。ないないないっ。
愁ちゃんがいるもん。大丈夫。
カンッ。
え?なに?
窓になにか当たったのかな?
カーテンを開けると、
家の下にはニカーッて笑う愁ちゃん。
まだいたの・・・?
「愁ちゃんなにしてるの?!」
「イタズラしようと思ってさ」
イタズラって・・・何を投げたか知らないけど窓ガラス割れたらどうすんのっ?!
「芽生ー。」
「なあに?」
「もうぜってぇ大丈夫。俺ヒーローなんだろ?」
愁ちゃんはすごいよ。
あたしの考えてる事が全て分かってるみたいで。
あたしが不安になる何倍も安心をくれるから。
小さい時からずっと。
あの日を境にずっと。
あたしのパパはあたしを庇って死んだ。
あたしが投げたボールが道路脇にはまっちゃって、
取りに走ったあたしにバイクが突っ込んできて。
あたしの目の前でパパは轢かれた。
地面はあっという間に赤に染まって、
あたしが何度パパを呼んでもパパは返事をしてくれなくて、
救急車のサイレンとママが泣く声が今でも鮮明に残ってる。
病院に着いてママが呼ばれて、
ママはしばらくその部屋から出てこなかった。
ママが部屋から出てきて、
パパがベッドで寝ててパパの顔の上には真っ白な布が1枚。
ドラマで見たことがあったから、
あたしはすぐに理解した。
パパが死んだって事に。
あたしのせいでパパが死んだ。
あたしを庇ってパパが死んだ。
泣いても泣いても涙は止まらなくて、
泣き叫ぶあたしの元に話を聞いた愁ちゃん家族がきてくれた。
あの日からだった。
「芽生ちゃんのせいじゃないよ!」
「芽生ちゃんは悪くないよ!」
「僕は芽生ちゃんが生きててくれて嬉しいよ」
「僕はずっといるよ!消えたりしないよ!ずっと芽生ちゃんといるから!」
あの時からあたしは愁ちゃんに支えられてばっかりだった。
逆にあたしは愁ちゃんに何かしてあげられてるんだろうか。
頼ってばっかで甘えてばっかで、
あたしは愁ちゃんに何かしてあげれてる?
あたしはね、
愁ちゃんがいなかったら、
絶望から上がってこれなかったかもしれない。
愁ちゃんがいなかったら、
友達もなにも出来なかったかもしれない。
今こうやって笑って過ごせるのは、
全部全部愁ちゃんがいてくれたからだよっ。
「・・・愁ちゃん!ありがとお!」
「ん」
それはたった一言だったけど、
愁ちゃんは優しい笑みを見せてあたしに手を振って帰って行った。
大きくなった愁ちゃんの背中を、
あたしは姿が見えなくなるまで見てた。