ラストボーイ







その後も愁ちゃんがボールを触る事はなかった。



選手が集まり出して、
いよいよ試合が始まった。







どうやら愁ちゃんはまだ出ないらしい。




未だに目を開けようとしない愁ちゃんにどうして誰も言わないの?!




試合の展開は早かった。

皆勇志くんにボールを集めて、
ゴール近くで勇志くんが点を取る。




流れが順調なのは最初だけだった。






相手チームも戦略に気付いたのか、
勇志くんへのマークが厚くなった。






身動き取れない勇志くんに、
次第に焦り始めた皆のプレーが乱れパスが上手く回らない。






そしてあっという間に同点まで追い込まれた。






「勝てるかな・・・・・」




本音が溢れる。
礼ちゃんも不安そうに試合を見てた。






ピピッー!!





鳴り響くホイッスル。



選手交代・・・・・?愁ちゃんだっ!!





流れは完全に相手チーム。

ここでバスケ部顧問がなにやらチームを収集し話をしていた。






「愁くん出るねっ!」





さっきまで動かなかった愁ちゃんが、
ここへきてようやく目を開けて立ち上がった。




付けていたイヤホンを外し、
シューズの紐を締め直して愁ちゃんが入った。







大丈夫かなっ。


全然皆と練習してないのに息合うのかな。






不安と心配であたしは立ち上がって、
愁ちゃんの名前を叫んでたんだ。








「愁ちゃんっ!!!!!」






応援してる人達の声に、
あたしの声は消されてたかもしれない。






愁ちゃんには届いてなかったかもしれない。







ううん。ちゃんと聞こえてる。




愁ちゃんにはちゃんとあたしの声が届いてたんだね。






愁ちゃんが入ってすぐ、
相手チームは情報が無かったのか愁ちゃんにマークを付けなかった。





勇志くんから愁ちゃんにボールが渡る。





言葉が出なかった。




一瞬の出来事で、
手に吸い付いたようなボール捌きは、
ここにいる皆が驚いたはず。





愁ちゃんが投げたボールは綺麗に決まった。




沸き上がる観客。






「すっごぉい・・・・・」





礼ちゃんですら放心状態。




愁ちゃんすごいよ。

危機を救っちゃうんだもん愁ちゃんは。







あたしの方を見た愁ちゃんがしてやったぜとでも言ってるようなドヤ顔をした。






ほら、ちゃんと聞こえてた。




あたしの声届いてたんだね。


< 36 / 316 >

この作品をシェア

pagetop