ラストボーイ
愁ちゃんは厚焼き卵を口に運ぶと、
満足そうに頷いた。
「どう?」
「美味い!さんきゅ!」
愁ちゃんの笑顔にやられたのか、
黄瀬さんの顔が見る見るうちに赤くなってくのが分かった。
「芽生のもいただき~」
あ、開けないでぇ・・・・・。
黄瀬さんとは真逆で可愛さの欠片もない、
無地のお弁当箱に遊び心もゼロ。
あたしは今すぐその場から逃げ出したかった。
「芽生ちゃんこれ作ったの?!ちょっとこれはふざけすぎでしょ♪」
口元に手を当ててクスクス笑う黄瀬さん。
最悪だっ・・・。
恥ずかしいし普通こんなまずそうなお弁当あげないよね・・・。
「海老フライ入ってんじゃん!」
「・・・え?あ、あぁ・・・愁ちゃん昔から好きだから入れたんだけど・・・・。」
「美味そうじゃん。」
え?どこが?ど、どこらへんがっ?!
いくらなんでもフォローになってないよ愁ちゃん・・・。
誰が見ても悲惨なお弁当だもん。
「うん美味しそう。頑張ったね芽生ちゃん」
「芽生すごいじゃんっ!!オニギリ握れたっけ?!」
勇志くんも礼ちゃんも、
そんな気使わなくていいのに・・・。
「見た目はアレだけど超美味い♪」
海老フライを頬張った愁ちゃんが、
笑顔でそう言ってくれた。
良かったぁ。
ママに教えてもらいながら作ったんだけどね。
それから愁ちゃんは、
あたしのお弁当を綺麗さっぱり食べ終えて、
黄瀬さんから貰ったお弁当も食べ切った。
一体どんな胃袋してるの・・?
空っぽになったお弁当箱を見てにやけるあたし。
「芽生ちゃん良かったね?」
なんか棘のある言い方だなぁ黄瀬さん。
協力したつもりだったんだけどな。
「それより、あたしこの後愁と帰りたいんだけどぉ~・・・だめかな?」
だめ・・・な訳ない。
協力するって言ったんだもん。
「ねぇ愁っ!一緒に帰ろう?」
黄瀬さんが愁ちゃんの腕に絡み甘い声を出す。
「わり、芽生達来てくれたからそっちと帰る」
黄瀬さんはあたしの顔を見て目配せする。
このタイミングで、
あたしがなにかすればいいんだよね。
「ごめん愁ちゃんっ。あたしこの後ママと・・・用事があって先に帰らなきゃいけないの忘れてた!!!」
あたしは2回目の嘘をついてしまった。