ラストボーイ






「ん~、じゃあこれっ!」




あたしが選んだのはごくごく普通な花火。
大好きな線香花火はやっぱり一番最後。




「じゃあ俺はこれ」



愁ちゃんが選んだのは、
クマの形をした可愛いらしい花火。



「人に向けんなよー?」



分かってるもんっ!!


ろうそくに近付けた花火は、
暗い公園に明かりを灯した。




「愁ちゃんのなにそれっ!しょぼいっ♪」



「よそ見すんなって危ないから」




分かってるってば!!

愁ちゃんはいつまであたしを子供扱いするんだろ?
もうあたし立派な大人なんだからっ!!




「そういえばさ、今日勇志達と話したんだけど夏休み中に皆で海に行かないかって」




「海っ?!行きたいっ!!」




「そう言うと思った。でも芽生泳げるっけ?」




お、泳げないけど、
浮き輪があれば入れるし、
海って言えばビーチバレーとか砂遊びとかやれる事は沢山あるもんっ!



「泳げないよ?」




「なら浮き輪は必須な。あ、芽生これラストだよ」



残ったのは線香花火。
時間が経つのはあっという間だった。



愁ちゃんが束から一本取って、
あたしに渡してくれた。



「知ってる?線香花火って願い事して、最後まで落とさずに消えたら叶うんだって」




「そうなのっ?じゃあお願いしなきゃっ」




何をお願いしよう?


頭が良くなりますように?
多分どれだけ頑張ってもあたしののびしろじゃ無理だろうな。



お金持ちになりますように?


お金はあっても損はないけど、
なんかそれじゃ悲しすぎる。




「悩みすぎだろ!笑」



「あっ!これにしようっ。」




あたしは持っていた線香花火に火をつけた。
ゆっくりゆっくり小さな音をたてて光を放つ。





ずっと皆と一緒にいれますように。



少しずつ小さくなった火花は、
ゆっくり地面に落ちた。



「やった♪最後まで出来たっ!」




「何お願いしたの?」




「内緒っ」




「あっそ。じゃあ俺もやろ」




火をつけた愁ちゃんは、
目を閉じていつにもなく真剣で、
そこまで真剣にお願いする事があるのか不思議だったし聞きたかった。




「愁ちゃん何をお願いしたの?」





「絶対言わない」




「ケチ!」





白い煙と微かな火薬の匂いが、
あたしに夏を感じさせた。




小さな光に願いを込めた。


叶うといいな。

あたしはずっと皆といたい。



愁ちゃんが何をお願いしたかは分からないけど、
愁ちゃんのお願いが叶いますようにと、
最後の線香花火にお願いをした。
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