ラストボーイ
友達
愁ちゃんが転入してきてひと月が経った。
愁ちゃんはすぐに友達を沢山作ってた。
「芽生ちゃんおはよ」
「勇志くんおはよっ」
愁ちゃんと同じクラスの宮田勇志くん。
一年生なのにバスケ部のレギュラーを務める期待のエース。
愁ちゃんを通じて友達になった。
「今日愁いないの?」
「ちょっと遅れるから先にって言われちゃったぁ。一緒来たかったのになぁ~。」
「芽生ちゃんは愁がいなきゃダメなんだね」
「うんっ!愁ちゃんいないと無理っ」
クスって笑う勇志くん。
あたしなんかおかしい事言ったかな?
「それにしても遅いっ。愁ちゃん遅い!ねっ!礼ちゃん!」
「何か用事があるんじゃないの?なんも聞いてないの?あんた」
「聞いてない。そういえば聞いてないっ!!」
愁ちゃんは何かあれば必ずあたしに話すはずなのに。
ってか今までそうだったのにぃ~。
今日な一体どうしちゃったんだろ愁ちゃん。
あたしが口を尖らせながら窓の外を見ると愁ちゃん発見っ。
あくびをしながら、
両手をポッケに入れて歩いてる愁ちゃん。
今日は前髪をピンで止めてるみたい。可愛い♪
あたしの視線に気付いた愁ちゃんが、
ニコって笑っておはよって口ぱくをしてる。
あたしもすかさず返す。
「こーら。時田さん。授業中です。」
「ご、ごめんなさいっ。」
どうやら声にでちゃってたみたい。
んも~っ愁ちゃんのせいだ!
だいたいもう学校終わりなのに、
今から登校しても意味ないじゃんかっ!
あとで説教してやるんだからっ。
「ちょっと愁ちゃんっ!?」
「あ、芽生おはよ。朝ごめん。二度寝しちゃったみたい。」
「しちゃったみたいって、もう帰る時間だよ?!今から登校しても意味ないじゃん!!」
「意味?あるけど。」
「なによっ」
「芽生と帰る為?それ以外なんかあんの?」
こ、こやつ・・・ず、ずるいぞっ。
な、なにも言えないあたし。
だって愁ちゃんと帰れるのは嬉しいもん。
「つ、次はちゃんと1回で起きてねっ!」
「はーい芽生ちゃん♪」
くそぅ。説教するはずが、
まんまと愁ちゃんの言葉に乗せられてしまった。
「芽生、悪いけどちょっと待ってて?俺、お呼び出しくらったの担任に。」
当たり前です。
「うんっ!教室にいるねっ」
あたしは一度持った荷物を机に下ろして、
愁ちゃんが来るのを待つことにした。
お呼び出しなんて当然の報いだ。
「あれ?芽生ちゃんまだいたの?」
バスケのユニフォームを着た勇志くん。
愁ちゃんも着たら似合うんだろうなぁ。
「うんっ愁ちゃん先生にお呼び出し!!勇志くんはこれから部活?」
「あぁ。今から練習。あいつ今日大寝坊したらしいね。そりゃ呼び出されるわな!!」
「まったくだよっ!電話して1回は起こしたのに二度寝なんかするからっ!」
「はははっ、あいつらしいね。馬鹿だ」
トントンッ
教室の扉をノックしたのは、
見たことない生徒。誰だろう?
「お話中ごめんね。時田芽生ちゃん、話があるんだ。ちょっといいかな?」
あ、あたしっ?
「あ、あたし・・・ですか?」
「うん。芽生ちゃんに。」
ニコってする彼は爽やか系で、
同級でない事は見て分かる。
1年の校舎にこんな人見たことないから。
「あっ・・・はい。」
あたしは渋々彼についてく事にした。
「芽生ちゃん、俺も行こうか?」
心配そうに眉をしかめる勇志くん。
「んーん、大丈夫っ!すぐ戻るし愁ちゃんそろそろ戻ってくるから!」
「わかった、またね」
黙ってついていき、
辿りついたのは体育館裏。
こんなとこで何の話があるんだろう。
「ごめんね、いきなり。驚いたでしょ?」
「あっ、はい。失礼ですけどお名前は・・・。」
ハッとして頭をかきながら、
どこが落ち着きのないその人。
「2年C組、塚田陽(ツカダ ヨウ)」
「あっ、時田芽生です。」
「うん。芽生ちゃんの事は知ってる!話ってのは・・・俺、芽生ちゃんが好きなんだ。」
は、はぁ・・・って・・・は????
「一目惚れなんだけど、ずっと見てた。笑った顔がすごく好きで、えっと・・・俺と付き合ってくれないかな。」
これはつまり告白ってやつですか?
ってかあたしなんかに・・・この人絶対見る目ないよっ。
「えっと、返事は・・・?」
「あのっ。ごめんなさいっ。付き合えません」
あたしは初対面だし、
好きでもない人と付き合えない。
好意をもたれるのは嫌な事じゃないけど、
全く接点がないのにあたしを知ってる事がすごく不信感だった。
「ちょっとずつでいいんだ!今すぐとかじゃなくて少しずつ距離を縮めていけないかなって・・・。」
「あのっ・・・本当にごめんなさいっ。」
「どこがダメかな?直すよ?なんでもする!」
あたしの手を掴む先輩。
反射的に抵抗しようとしたら、
手にすごい力が入って振りほどけなかった。
「・・・痛っ。」
「お願い。だめかな。本気なんだ。」
怖いこの人。やだっ。
「おい、なにしてんの?」