ラストボーイ






はぁ。やっぱり腫れてきちゃった。
昨日より赤く腫れ上がった手首。





「ママ~湿布か何かある?」



「湿布あるけど、怪我でもしたの?」




「うん。ちょっとねっ!ここ貼ってくれる?」





あたしは腫れた手首をママに見せた。





「どうしたのこれ!湿布だけじゃ取れちゃうから包帯巻いて行きなさい!」





包帯かぁ。
見るからに怪我してますーって分かるよね。



それに愁ちゃんや礼ちゃんが見たら絶対聞かれるだろうなぁ。




「ありがとっ!」




ママに湿布の上から包帯を巻いてもらって、
身支度をして玄関を出た。





「愁ちゃんおはよっ!」




「おはよ。」





小学校の時もそうだった。
愁ちゃんは必ずあたしの家の玄関前で待っててくれて毎朝二人で登校するのが日課だった。


愁ちゃんが寝坊しない限りはね・・・。






「芽生、それどうした?怪我?」





早速キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!






「う、うんっ!昨日ちょっと火傷しちゃって」




「火傷?お前料理とかするようになったの?」





ま、まずい・・・。
あたし料理全く出来ないんだった。
あたしとした事がっ!!






「最近ママの手伝いをたまーに。。」






「へぇ、んじゃ今度食いに行こっと。」





やめてください。
もうっ、なんでこんな嘘付いちゃったんだろ。




「芽生、愁くんおはよ。」




教室にはすでに礼ちゃんがいて、
愁ちゃんとは別のクラスだからひとまずばいばい。





「ちょっと芽生それどうしたの?!」






キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!(2回目)





「これね、火傷しちゃって。」




「跡とか残らなきゃいいけど。」




「大した事ないよっ!ありがと礼ちゃん♪」




嘘を付いてる罪悪感。
でも心配ばっかかけたくないから。
前に一度だけ学校で喘息が出た時も、
礼ちゃんがおぶって医務室まで連れてってくれたり、


そのほかにも礼ちゃんには迷惑かけてばっかりだもん。



たまにはあたしも役に立ちたいなぁ。





「そういえばさ、今日駅前に新しくクレープ屋さんが出るんだって!一緒に行かない?」





クレープ?行くに決まってるっ♪
あたしは大の甘党。





「行くっ!!行きたいっ!愁ちゃんもいいっ?!」





「そうね!皆で行った方が楽しいかもね!勇志くんも誘ってみようか!」





「うんっ!」




授業は上の空で、
あたしの頭は放課後のクレープばかりで、
今日何度先生に注意された事か。





「愁ちゃんっ!勇志くんっ!」





勢いよくあたしがB組にきたもんだから、
二人は驚いた様子だったけど、
今のあたしにはそんなのお構いなしっ!





「駅前にねっ新しくクレープ屋さん出来たんだって!礼ちゃんと行くんだけど、愁ちゃんも勇志くんも一緒に行くよっ!」





「俺はいいけど、勇志部活は?ってか強制なんだ?」





「俺今日は部活無いから大丈夫だけど」





「じゃ、決まりっ♪早く早くっ♪」





他愛ない話をしながら駅までの道を四人で歩いた。


勇志くんは甘い物が苦手らしい。


ちょっと悪いことをしたなーって後悔。
愁ちゃんは今日英語の授業でペラっペラの英語を披露したみたい。





「あっ!あそこあそこっ!」






礼ちゃんが指差す方には新しく出来たばかりのすごい行列を作った可愛らしいお店。





「わあっ♪色々あるよ~っ♪」




はしゃぐあたしに愁ちゃんに腕を掴まれ、
列の最後尾まで連れていかれた。





「愁ちゃん何食べるっ?あたしチョコバナナにしようかなぁ♪でも苺もいいなあっ♪」





「ちょっと芽生!そんな食べたら太るわよ?」





「こいつ昔から甘い物大好きのTHE甘党だからさ。俺苺にするから芽生チョコにしろよ半分やるから」





「ほんと?!愁ちゃんありがとお♪」





「俺あんみつにするわ~これなら食える・・・かも。」





あたしはひたすらメニューとにらめっこしながらニヤニヤしっぱなし。





「あ。」







「ん~?どうしたの?」





勇志くんの視線の先には、
塚田先輩がいたから。


女の子を連れてあたし達が並んでる列の後ろにきた先輩。






「あぁ芽生ちゃん、この前はごめんね?」





そう言って不敵に笑みを浮かべる先輩に、
この前された事を思い出して顔が上げられない。


それに愁ちゃんも礼ちゃんもいるのに。
今すぐここから逃げ出したかった。






「知り合い?」




愁ちゃんがあたしの顔を覗き込む。







今あたしはどんな顔をしてるだろ?
全身の血の気が引くってこの事なんだろうなってこんな状況の時に学んでしまった。





愁ちゃんと礼ちゃんにも嘘をついたし、
先輩はあたしの反応を見て遊んでる。



だめだ、泣いちゃだめっ。






「芽衣ちゃんまた話そうね?」







あたしの肩に触れた先輩がそう言った。
ただ怖くて、先輩は好意なんかじゃなく悪意なんだと察した。



身震いが止まらなくて、あたしはいてもたってもいらんなくて、
その場から走る事しか出来なかった。






後ろの方で礼ちゃんと愁ちゃんの声がした気がする。


勇志くんは全てを知ってるけど、
きっと嘘をついたあたしに二人は幻滅するよ・・・。





無我夢中で走った。
後ろを振り返らないでただ前へ前へ。






「ここ、昔愁ちゃんと遊んだ公園だぁ・・・」





誰もいない古びた公園。
雑草は仕切りなく生えてるし、
きっと今じゃ誰も遊ばない公園。

あたしと愁ちゃんがよく遊んだ場所。
二人でよく隠れんぼしたなぁ。



愁ちゃんがなかなか見つからなくて、最終的にあたしが泣いちゃって、それに気付いて愁ちゃんが出てきてくれたっけ。






プルルルッ♪
―着信 礼ちゃん―






きっと皆心配してる。
逃げても明日になれば嫌でも顔を合わすんだ。


あたしは勇気を振り絞って電話に出た。





「・・・もしもし?芽衣?」






受話器からは優しい礼ちゃんの声。






「・・・芽衣?今どこ?勇志くんから聞いたよ。話そ?大丈夫だから。芽衣が悪いんじゃないよ?」





礼ちゃんは優しい。
優しすぎるからあたしがついてしまった嘘がすごい申し訳なくて罪悪感でいっぱいになる。






「・・・れっ・・・いちゃっ・・・んごめんねっ」






「・・・話そ?今どこにいるの?」





涙が止まらなくて、
何を言っても伝わらなかったかもしれない。


受話器の向こうで愁ちゃんの声が聞こえてあたしは電話を切った。






今は一人でいたい。
明日ちゃんと皆に謝らなくちゃ。





愁ちゃんもきっと怒ってる。
あたしがちゃんと話してればこんな風にならずに済んだかもしれないのに。






勇志くんも黙ってくれてたのに、
結局迷惑かけちゃったし、あたしは最低だっ。






公園にはあたしの泣き声と、
ブランコの金属音だけが響いてた。





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