奇聞録
タクシー運転手をやっていると、怪談の一つ二つあります。
そうですね、シートが濡れていたとか、崖の縁まで走らされて、落ちれば良かったのに。みたいな話はよく聞きますね。
トンネルもの多いですが、私が見たのはもう少し奇妙でした。
暗い山道を走っていた時、ガードレールが見えたんですね。
カーブがきつい場所なんでスピードを落として曲がろうとした時、人の気配を感じたんですよ。
ガードレールって横に長いですよね。
普通の怪談なら、ガードレールの向こう側に何かが立っていると、なるのでしょうが、違うんですよ。
ガードレールと同じ向きに、ちょうど途切れた部分に顔を横に向けて、こっちを見ていたんですよ。
一瞬だったんですけど、鮮明に覚えています。
恨めしそうな顔が脳裏に焼き付いています。
山を越えて、事務所に戻ったときビックリしました。
後部座席の後ろの窓にべったり手形が残って居たんですから。
事務所にいた人間総出で落とそうとした時、又、ゾッとしました。
全部内側から着いていたんですから。
そんな事を忘れた頃、仕事用の携帯に公衆電話から指名があったんですよ。
呼ばれた場所まで行くと、あのガードレールの近くの公衆電話だったんですよ。
その後運転手は、勤務中に心筋梗塞を起こし、他界してしまった。
その運転手が使っていた携帯にはたまに例の公衆電話から電話が掛かってくると言う。