勘違いの恋
「水瀬」
デスクで資料を作っていると、名前を呼ばれた。振り返ると、上司が私に向かって手招きをしているところだった。
「はい」
私、何かやらかしたっけ?
そんなことを考えながら足早に近づくと、藤間部長が私に書類を見せる。
「喜べ水瀬。この件、進めることになったぞ」
「え……」
机の上に置かれた書類を見ると、それは少し前に私が提出した企画書で、周りには無理だとか無謀だとか、とにかく厳しく言われていたものだった。
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。ある程度条件はあるけどな。そして何より、この俺の後押しがあったからこそだから、そこは猛烈に感謝しろ」
「はい、藤間部長、ありがとうございます!」
「礼はデート1回でいいぞ」
上司はそう言ってニヤリと微笑む。
「分かりました。いつもの残業ですね。それくらいならいくらでも!!」
私が張り切って言うと、10歳年上の上司は苦笑した。
「お前の中で俺の誘いってのはそういう位置なんだな。これからは気をつけるとするか」
藤間部長は独り言のようにそう呟いてから、また私の顔を見た。
「それともう一つ。お前、最近何かあったか?」
「何か? いえ、特に何も……」
「本当に?」
いつになく食い下がる部長を不思議に思っていると、別の書類を差し出された。
「これ見ろ」
受け取ると、それは私が昨日作成した報告書などの提出書類だった。見たところ、特におかしい点は見られない。部長が何を言いたいのか分からなくて困っていると、部長が立ち上がり、私が持っている書類を覗き込むようにして、日付を指し示した。
「あ!」
「……やっと気づいたか。昨日お前が出した書類、全てがその日付だ。その通りの日付だとすると、すでにネコ型ロボットが開発されてるな」
「申し訳ありません……」
頭を下げるしかない。2115年って……。自分でもどうしてそんなくだらないミスをしたのか分からない。しかも昨日作った書類全部って……。
藤間部長は苦笑しながら椅子に座り、それから少しだけ心配そうな口調で言う。
「それに気づいたのは俺だけだから問題ない。ただ、普段の水瀬からは考えられないミスだが、他には何のミスもないし、もしかして何かあったのかと思ってな。何もないならそれでいい」
部長は笑みを含んだ声でそう言ってくれたけれど、私は恥ずかしさと情けなさで顔を上げることもできないまま、自分の席に戻った。
そして膝の上でギュッと両手を握って心に決める。
うん、やっぱり私は仕事一筋にやっていくしかないのだと……。
デスクで資料を作っていると、名前を呼ばれた。振り返ると、上司が私に向かって手招きをしているところだった。
「はい」
私、何かやらかしたっけ?
そんなことを考えながら足早に近づくと、藤間部長が私に書類を見せる。
「喜べ水瀬。この件、進めることになったぞ」
「え……」
机の上に置かれた書類を見ると、それは少し前に私が提出した企画書で、周りには無理だとか無謀だとか、とにかく厳しく言われていたものだった。
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。ある程度条件はあるけどな。そして何より、この俺の後押しがあったからこそだから、そこは猛烈に感謝しろ」
「はい、藤間部長、ありがとうございます!」
「礼はデート1回でいいぞ」
上司はそう言ってニヤリと微笑む。
「分かりました。いつもの残業ですね。それくらいならいくらでも!!」
私が張り切って言うと、10歳年上の上司は苦笑した。
「お前の中で俺の誘いってのはそういう位置なんだな。これからは気をつけるとするか」
藤間部長は独り言のようにそう呟いてから、また私の顔を見た。
「それともう一つ。お前、最近何かあったか?」
「何か? いえ、特に何も……」
「本当に?」
いつになく食い下がる部長を不思議に思っていると、別の書類を差し出された。
「これ見ろ」
受け取ると、それは私が昨日作成した報告書などの提出書類だった。見たところ、特におかしい点は見られない。部長が何を言いたいのか分からなくて困っていると、部長が立ち上がり、私が持っている書類を覗き込むようにして、日付を指し示した。
「あ!」
「……やっと気づいたか。昨日お前が出した書類、全てがその日付だ。その通りの日付だとすると、すでにネコ型ロボットが開発されてるな」
「申し訳ありません……」
頭を下げるしかない。2115年って……。自分でもどうしてそんなくだらないミスをしたのか分からない。しかも昨日作った書類全部って……。
藤間部長は苦笑しながら椅子に座り、それから少しだけ心配そうな口調で言う。
「それに気づいたのは俺だけだから問題ない。ただ、普段の水瀬からは考えられないミスだが、他には何のミスもないし、もしかして何かあったのかと思ってな。何もないならそれでいい」
部長は笑みを含んだ声でそう言ってくれたけれど、私は恥ずかしさと情けなさで顔を上げることもできないまま、自分の席に戻った。
そして膝の上でギュッと両手を握って心に決める。
うん、やっぱり私は仕事一筋にやっていくしかないのだと……。