イジワル同期とルームシェア!?
「今、ちょうど元希がスピーチをしてるわ。会いにきたんでしょう?」


「え?」


「あなたと元希の関係はあらかた知ってるから安心して」


なぜ、毬絵さんがそんなことを言うのかわからない。
元希が説明したというのだろうか?
でも、何のために?

そもそも、毬絵さんは元希の移籍についても、何か重要なことを知っているのかもしれない。
……いや、問いただす暇はない。ともかく会場に潜入するのが先だ。

豪奢なシャンデリアが据えられ、光溢れるバンケットルームには、ワインと料理の香りが満ちている。
セレブがわんさかの会場内は、私の場違い度が霞むほど招待客でいっぱいだった。

毬絵さんの後ろを着いて行きながら、声のする方へ必死に伸び上がる。
正面中央の壇上でスピーチをしているのは、やはり元希だった。

私は信じられない気持ちで、元希の姿を眺めた。
スマートなスーツは普段の営業時とは違い、スリーピースの上品そうな仕立てのものだ。
いつもはワックスで適度に無造作に仕上げられた髪は、今日はややまとめてあり、パッと見、若手政治家みたい。

表情は笑顔。
同期に見せるへらっとした笑い方じゃない。
引き締まった口元は誠実そうで、そして落ち着いた声音は変わらず魅力的だった。
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