夏祭りの恋物語(1)~不機嫌な浴衣~
 私が言うと、大樹が背筋を伸ばした。

「ゆっくりって言うのは……ちょっとじれったいけどな」

 大樹の言葉の意味がわからなくて首を傾げて見上げると、彼が両手を伸ばして私の頬を包み込んだ。頬に大きな手が触れて、心臓が驚いたように飛び跳ねる。

「結月との距離をもっと縮めたいって思ってるから」

 その直後、私の唇に大樹の唇が触れた。胸の鼓動が頭の中にまで響いているみたいで、押し当てられている柔らかな唇に、ただドキドキしていた。

 大好きな大樹とのファーストキス。

 ようやくそれを実感できたのは、大樹の唇が離れてからだった。

 嬉しいけど恥ずかしくて、どんな顔をしていいのかわからない。ちらっと大樹を見上げたら、彼も照れたように目元を緩めていた。

 うまくできたかな? 目を閉じるの、忘れてたような気がする。でも、すごいアップだったから、大樹の表情もよく見えなかった。

「腹減った。焼きもろこし食いたい」

 大樹が唐突に言って、私の手を握って歩き始めた。

 や、焼きもろこし!?

 ファーストキスなんだよ? 余韻に浸るとか、ないの!?
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