君に恋していいですか?
彼の言葉を信じて、疑わなかった。

一体どこまでが本当の言葉だったのか?

どこからが嘘だったのか?

(今更こんな事考えるのバカらしい…。)

かつての恋人と、喫煙室で久し振りに顔を合わせてしまった。

恋人だと思っていたその人は、薫と出会う前から付き合っていたと言う、同じ部署の同僚が妊娠したのを機に結婚した。

浮気されたわけではない。

知らないうちに、自分の方が浮気相手にされていた。

だから他の人たちには内緒だったのだと思うと悲しさを通り越して、ただ情けなくて、ひたすらみじめで、その事は誰にも言えなかった。

結局、本気で好きだったのも、傷付いたのも、自分だけだった。


あれだけ傷付けておきながら、なに食わぬ顔で“久し振り”なんて、よく気安く声を掛けられるなと思った。

薫は思い出したくもない若かりし日の“社内恋愛”を悔やみながら歩き続け、予約されていた店に着くと、壁際の席に座った。

(あーもう…。こうなったら今日は会社の金でとことん飲んでやる!!普段人一倍働いてんだから、文句ないだろ!!)



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