君に恋していいですか?
長い間ずっと、みじめな自分を嘆いて一人で泣き続けた。

女としての自信のなさを言い訳にして、もう誰も自分の事を好きになってくれる人なんていないと、浩樹との恋の記憶にしがみついていた。

また恋をして傷付くのを怖れ新しい恋にも踏み出せず、志信に惹かれている自分の気持ちに嘘をつき、もう2度と恋愛なんかしないと心を閉ざして志信を遠ざけようとしていた。


浩樹に別れを告げた事で、薫のつらく苦しかった想いに、やっと終止符が打たれた。

そして、終わった恋に縛られて下を向いていた昨日までの自分を脱ぎ去れた気がした。

薫は清々しい気持ちで、愛しい人の顔を思い浮かべる。

それはかつての苦い記憶の中の恋人ではなく、ありのままの自分を好きだと言ってくれた、この先ずっと一緒にいたいと思える人の優しい笑顔だった。




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