君に恋していいですか?
前任のチーフが寿退職し、チーフ職を引き継いで3年。

入社してから早い段階で退職する女性社員が多い中、仕事に没頭して充実した毎日を送っているうちに三十路を迎えた薫は、いつしかベテランと呼ばれるようになっていた。

女性社員の中ではかなりの年長者の枠に入ってしまったが、本社に所属していながらオフィスにいる時間は少ないので、同じ部署の他の女性社員たちは薫の事を“お局様”とは思っていないらしい。

それは薫のサバサバした男っぽい性格のせいもあるのだろう。

それに気付いていないわけでもないが、時々オフィスに一日中いる時に感じる違和感や、しがらみのようなものとは無縁の場所にいられる事に、少し安堵していたりもする。


薫は車を運転しながら、入社して間もない頃にある人から言われた言葉を、ふと思い出した。


“誰よりも一生懸命仕事してる薫の事が、すごく好きなんだ。”


(あー、なんで急に思い出すかなぁ…。)

灰皿の上でタバコを揉み消して、ため息混じりに煙を吐き出すと、遠い日の苦い恋の記憶を打ち消すように、カーステレオのボリュームを上げた。

(社内恋愛なんて、ろくなもんじゃない。2度とするもんか。)


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