君に恋していいですか?
喫煙室には入らず回れ右して、二人で廊下を歩いていると、廊下の向こうから浩樹が歩いて来るのに薫は気付いた。

(あっ…。)

薫は思わずうつむいて、志信の影に隠れるように、志信の半歩後ろを歩いた。

その様子を不思議に思った志信が薫に声を掛ける。

「どうかした?」

「ううん…。」

(どうか気付かれませんように…。)

薫は心の中で何度もそう呟いた。

しかし薫の思いとは逆に、浩樹はうつむきながら歩いている薫に気付いた。

「お疲れ様。」

「お疲れ様です。」

すれ違う少し手前で浩樹が挨拶すると、志信は軽く頭を下げながら挨拶をした。

すれ違い様に、浩樹が薫の肩をポンと叩いた。

「お疲れ様。」

「…お疲れ様です。」

薫はうつむいたまま、やっとの思いで掠れた声を絞り出すように挨拶した。


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