飴とノイズと君の声
家に帰って、ふうっと息を吐く。
そして、琳ちゃんさんが取ってくれたクマのぬいぐるみを眺めた。


「りーくん、どーしよ」


りーくん、と名付けたそのぬいぐるみは、相変わらずあどけない表情で私を見ている。


「あー...なんか分かんなくなっちゃった」


そう言ってりーくんを抱き締めてみるけど、やっぱり答えはわかんない。

琳ちゃんさんの役に立ちたいけど、琳ちゃんさんがそれを望まないなら、勝手なことをしちゃいけない。

そう思って悩んでいると、携帯が鳴った。

けーちゃんさんからだ...。


「もしもし」

「もしもし、ふーちゃん?」

「どうしたんですか?」

「...琳ちゃん、知らない?」


けーちゃんさんの声は、焦りを含んでいる。


「知らないですけど...いないんですか?」

「うん...マネージャーが迎えに行ったんだけどいなくて...今、俺達探してるんだけど...」


琳ちゃんさんの、下手な作り笑顔が頭に浮かんだ。

何かを隠していて、何かに不安がっていて。
...助けなきゃ。

琳ちゃんさんの気持ちは、分かっていない。
だけど、琳ちゃんさんは一人になりたいって思うような、そんな強い人じゃない。

今、感じるんだ。
琳ちゃんさんが、不安がっているのが。
不安にかられて、震えているのが、自分のことみたいに感じるんだ。


「私も探します!」


私は携帯を切り、家を飛び出した。
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