猫系男子の甘い誘惑
「……このカップも……捨てちゃおう。どうせ、端っこ欠けてたし」

 ちょっとくらい縁が欠けていてもまだ使えると敦樹がこだわっていたのは、彼が最初にこの家に来た時に倫子がお揃いで買ったマグカップだった。片割れの倫子のカップは、とっくの昔に割ってしまっていて違うカップを使っていたというのに。

(……そうじゃないそうじゃない。さっさと全部処分しなきゃ)

 服はどうするか一瞬迷ったが、今さら連絡したところで、何年も着た部屋着を取りに戻って来るとも思えない。このさい、全部捨ててしまえばいい。

 倫子は、容赦なく敦樹の残していったものをゴミ袋に詰め込む。服を入れた袋が二つ、不燃物が一つ。可燃のごみは思っていたほどなかったから、そのままキッチンスペースの端に置いておくことにする。

 ゴミ置き場まで往復してから、室内を見回した。今度は床に敷いているラグが、なんとなく薄汚れているような気がする。家の洗濯機でぎりぎり洗えるサイズのそれを、遠慮なく洗濯機に突っ込んだ。

 しばらく放置していたガス台を磨き、シンクもぴかぴかにして、一心不乱に作業を進める。

(そう言えば、ここのところこんな風に身体を動かすことってなかったかも……)
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