猫系男子の甘い誘惑
「いや、だって倫子さんを綺麗にするのに、倫子さんのことよく知るのって大事じゃん? あ、砂糖ほしいな」
「ミルクは?」
「砂糖だけでいい」

 スティックシュガーを二本、一度に封を切って紅茶に流し込むのを見ながら、倫子は砂糖をいれない紅茶を口に運んだ。

「……それで、何かわかった?」
「うん。まあ、いろいろと」

 そう言う佑真の顔には、悪びれた表情なんてどこにもなかった。満足そうに甘い紅茶をすすった彼は、カップを置くと倫子の背後に指を向けた。
 
「ほら、そこ。さっきも言ったけど、あのあたりだけ空間空いてるよね。たぶん、元カレのものじゃないかなあ……倫子さん、カップ出すのにすごく上の方から出していたし、お揃いのマグカップとか?」
「一応、お客様用のいいカップを出したんだけど」

 そう言って誤魔化しながらも、倫子は佑真の観察眼の鋭さに舌を巻いていた。
 
 そう、たしかに昨日まではそこに敦樹のマグカップが置かれていた。縁が欠けても大切に使っていたカップが。

 昨日、捨てたばかりのゴミ袋の中身が一瞬頭を掠めたが、首を振ってその光景を追い払った。

 そんな倫子の様子に気づいているのかいないのか、砂糖をたっぷり入れた紅茶を満足そうに飲み干した佑真は立ち上がる。
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