猫系男子の甘い誘惑
「それじゃ、さ。行こうか?」
「どこに?」
「ナイショ。あ、倫子さん着替えてきてよ。動きやすい服がいいなー。スニーカーは持ってる?」

 ナイショ、なんて言われても困ってしまう。何を着たらいいのか、わからないではないか。倫子はむぅっと膨れた。

「動きやすい服って、言われても」
「んー、ちょっと歩くからそのつもりでいてくれたらいいな。羽織るもの忘れないで。俺のためにうんと綺麗にしてきてよね! 女の人の支度に時間がかかるのはわかってるから、急がなくていいよ」

 はぁ? と倫子が間の抜けた声を上げているうちに、佑馬は外に出てしまっていた。彼の方は、通りすがりに出されたカップをキッチンに戻している余裕まであるらしい。
 
 とりあえずカップを綺麗に洗い、シンク横に敷いた布巾の上に並べておく。洗いながら、自分が次にどうすべきなのかを考えた。

 どこに行くつもりなのかたずねたくても、当の本人はもう外に出てしまっている。

 不承不承、倫子はクローゼットの扉を開いた。動きやすい恰好と言っていたから、ジーンズを引っ張り出してシャツを合わせる。羽織るもの、と言っていたからロングカーディガンを取り出した。

(……家まで来たから……てっきり何か要求されるかと思ってたんだけど)
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