猫系男子の甘い誘惑
 もう一回要求されたところで、一回寝てしまったのだから、今さらだ。てっきりそっち方面の要求をされるのかと思っていたら、何もされなかったから拍子抜けしてしまう。

(……いやいや、期待していたみたいだし!)

 断じて期待していたわけではない。というより、あの夜のことが完全に頭から抜け落ちているのってどうなんだろう。
 Naoで大荒れした記憶もないし――当分酒は控えようと改めて誓う。

 化粧を直して外に出る。マンションの外廊下、左右を見回してみるが、そこに佑真はいなかった。わざわざ着替えて出て来たのに――どこに行ってしまったのだろう。

「倫子さん、こっちこっち!」

 声のした方に目をやれば、下の道路で佑馬が手を振っている。

「すぐ行く」

 慌てて下りてみれば、佑馬はいない。今度こそ馬鹿にされているのではないかと、倫子の堪忍袋の緒は、あっという間に切れようとしていた。

(――どこかに行くとか言ってたけど、このまま引き返そうかな)

「やだなあ、帰らないでよ。こっちこっち! 乗って!」

 マンションの中に引き返そうとした倫子を再度引きとめたのは、車の中からかけられた声だった。

 見たことのない赤い軽自動車が停まっている。助手席の窓から中をのぞけば、運転席には佑真がおさまっていた。
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