猫系男子の甘い誘惑
「まーた難しい顔してる。早く老けるよ?」
「それはセクハラじゃないの?」

 窓の近くいい位置を佑真がとってくれたおかげで、下の方までよく見える。赤や黄色の花――名前は知らない――が一面に広がっているのは、たしかに美しい光景だった。

「俺、倫子さんにはいつまでも綺麗でいてほしいもん」

 やれやれ。倫子の口からため息がこぼれた。本当に、こいつは何を考えているのかわからない。

 ロープウェーを降りた後は、今度は山頂目指して歩いていく。ふもとから登ってくる人のために登山道も整備されているのだが、今日二人が歩くのは、山頂までのちょっとした遊歩道だだ。
 
 場所によっては階段も整備されていて、厳重な山装備をしていなくても、問題ない。幼稚園児も歩いているくらいだ。
 
「うっそ……こんなに大変……だって……思って……なか……」
「もー、倫子さんの運動不足! ほら、荷物は俺が持つから頑張って!」

 子供だってすいすいと歩いている道なのに、どうして途中でへばってしまうのか、倫子にもわからなかった。荷物も全部佑真に預けて、ひぃひぃ言いながら、山頂を目指す。

「――ほら、すごくいい空気。来てよかったと思わない?」
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