猫系男子の甘い誘惑
 途中、小学生に笑われたりしながらもたどり着いた頂上は、たしかに空気が澄んでいて、気持ちよかった。涼しい風が、汗にほてった身体を冷やしていく。

「本当、気持ちいい」

 素直な感想が口をついて出た。

(まさか、こんなところにまで連れてこられるとは思ってなかったけど)
「俺さあ、倫子さんはもっと外に出るべきだと思うんだよね? 家にいたら、嫌なことばかり考えるでしょ」

 途中のコンビニで買ったペットボトルを倫子の方に差し出しながら、佑真は笑う。

(……たしかに、そうかも。そう言えば、最近昼間から外を歩くってなかったかもしれない)

 ここのところ、あまりにも出かけるのがおっくうで、休みの日は一日家でごろごろしていた。仕事のある日も、人と関わりたくなくてまっすぐ帰宅していた。

 久しぶりにあの店に行き――それで、酔いつぶれてこんなことになっているのだから、自分でもどうかしていると思う。

 一息にペットボトルを半分空にした彼は、実に悪びれないいい笑顔を見せた。

「だから、さ。しばらくの間、俺が倫子さんを連れ出すから覚悟しておいて?」
「え?」

 前の言葉と、あとの言葉が、どういう原理でひとつになるのかわからない。だが、こんな気持ちいい空気の中で逆らうのも馬鹿馬鹿しくて、倫子は「いいよ」と返したのだった。
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