猫系男子の甘い誘惑
「ねえ、佑真」
「何?」

 駅ビルの中を歩きながら、倫子は佑真に声をかけた。彼とこうして出歩くようになってから、ふた月が過ぎようとしている。

「こんなに私に付き合わなくてもいいんだよ? 佑真にだって、佑真の生活があるでしょうに」
「そうだけど、やったことには責任とらないと」
「それはもうとってくれなくていいって話したじゃない? あとは私の問題だし」
「……違うよ」

 不意に足を止めた佑真は真面目な顔になった。

「責任を取ろうとしてるわけじゃない。これは、俺にとっても――やる必要があるからやってるわけで」
「やる必要?」
「うん、俺、あの人のやり方気に入らないんだよね」

 珍しく厳しい口調に、倫子は驚かされた。いつもにこにこしている佑真は、こんな風に負の感情をあらわにすることはない。

「倫子さんを都合よく使ってさ、それで自分だけ幸せになるんでしょ? それって、俺としては、すごく嫌なことなんだ。そういう男ばかりだって、倫子さんには思ってほしくない」

 まっすぐな言葉は、倫子の胸にすとんと落ちてきた。それなのに、口をついて出るのはひねくれた言葉ばかり。

「わっかいわねぇ……いつまでそんな風にしていられるのか、見てみたい気もするけど」
「そりゃ、倫子さんよりは若いだろ。俺がどれだけ望んだって、倫子さんより年上になることはできないもん」
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