猫系男子の甘い誘惑
「泣いてた? 誰が? な、泣くはずないじゃないの!」

 彼とのことは、とっくに終わっているはずだ。どれだけ泣いても、彼が戻ってくることはないと納得していた。

「誰がって――倫子さん。あと――俺的には絶景なんだけど、その格好はどうかなあ?」
「ぎゃあ!」

 どうせ昨夜さんざん見ただろうに、なんて返しができるくらい余裕があったなら、今頃こんなことにはなっていない。色気のない悲鳴を上げて、引き剥いだベッドのシーツを身体に巻き付ける。

「それで? なんで私、あんたとここにいるわけ?」

 シーツで身体を隠してちょっとだけ自分を守れるような気がした倫子が問いかけると、しかたないなぁというように佑真は笑った。

「だって、昨日倫子さん『Nao』で、飲んでたじゃん? 俺が行った時にはもういい感じで酔ってた――っていうか、マスター困ってたけど」
「うわああああああああ、もう入りたい。穴がなくても掘って入りたい! むしろ埋めて!」

 身体に巻き付けたシーツの端をがしがしと齧る。ああそうだった、昨夜は別れた元カレが結婚するという話を聞いたのだった。

 社内恋愛なんてするもんじゃない。

 社内恋愛にオープンな会社ではないということをさし引いても、同期で付き合っているというのを口外するというのはどうかという点で二人の意見は一致した。

 だから、倫子と元カレの敦樹が付き合っているなんてことは誰も知らなかった。
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