猫系男子の甘い誘惑
やってきたその日
 思っていたよりもずっと、その日が来るのは早かった。宅配便で受け取ったドレスを手に、披露宴の会場となっているホテルを訪れる。
 
 大丈夫だと思っていても、いざ本人を目の前にしたら、どんな反応をしてしまうのか、不安を覚えずにはいられない。
 
「……大丈夫、問題ない……はず」

 今までに何人もの披露宴に参加してきたけど、披露宴の会場に入るのにこんなに気合を入れたことがあっただろうか。いや――ないと断言できる。
 
 披露宴会場のホテルに、メイクや髪のセットまで申し込んでしまった理由は、自分でもよくわからない。
 
 ただ、自分でやるよりはプロの手に任せた方が綺麗に仕上がることだけはよくわかっている。
 
「倫子さんさあ、こういう感じにしたらいいと思うよ?」

 と一週間ほど前、佑真が持ってきた雑誌は切り抜いて準備してあった。これを渡せば似たような形にセットしてもらえるはずだ。
 
 鏡の前に座った倫子は、プロの手によって少しずつ自分の顔が変わっていくのを眺めていた。

(何が綺麗、よ。結局、いつもと変わらないじゃない)

 鏡を見ながら、倫子は毒づく。たしかにプロのメイクはいつもとは少々違って見えるが、びっくりするほど美人になったというわけではない。
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