猫系男子の甘い誘惑
 どんなにつらくても、失恋それだけじゃ人間は死ぬことはできない。そこから先、何を考え、どう行動するかはその人次第だ。

(……変わったのは、私なのかな。敦樹なのか……今では、それもどうでもいいような気がするけど)

 気がついた時にはスピーチは終わり、乾杯のためにグラスを掲げていた。

(おいしいものを食べに来たと思えばいいか)

 このホテルは、食事がおいしいので有名だったはず。ご祝儀もきちんと渡したことだし、料理を楽しんだって罰はあたらないだろう、きっと。

 アルコールは遠慮しておくことにした。

 さすがに同僚に囲まれている中であの日のような失態は犯さないだろうが、万が一のことを考えれば、油断はできない。

(……奥さん、けっこう可愛いじゃない)

 キャンドルサービスで各テーブルを新郎新婦が回り始めた時には、新婦の顔を観察する余裕まで生まれていた。

 新婦の腰に手を添え、キャンドルに点灯しようとしていた敦樹と目が合う。にこりと微笑んでやると、動揺したように視線が揺らぐ。

(……私が何かすると思ってるんじゃないでしょうね……)
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