猫系男子の甘い誘惑
「いらっしゃい……おや、お久しぶり」
「ども……先日はご迷惑おかけしまして」

 にこやかに出迎えられ、かえっていたたまれなくなる。倫子は小さく頭を下げた。

「迷惑? そんなことありませんよ。佑真君がきちんと家まで送ると言っていましたしね」
「それなら、よかったですけど」

 店は模様替えされていたけれど、久しぶりに顔を見たマスターは、以前とまったく変わらない雰囲気だった。

 倫子のあいまいな笑みが前回店を出た後何があったのかを予想させてしまっている気もするが、お互い大人だから細かいことは追及しない。カウンターの一番奥、佑真と二人並んで座る。

「倫子さん、何飲む?」
「モスコミュール」

 披露宴の席では、乾杯のビールだけ。もう、今日一番の難関は無事に越えたことだし、少しくらいはいいだろうと気がゆるむ。

「マスター、私が飲み過ぎかと思ったらさっさと止めて」

 倫子の言葉に、カウンターの中にいるマスターは小さく頭を下げた。

「えー、俺が止めるから大丈夫なのに」
「そう?」
「うん。ちゃんと止める。ただでさえ荷物重いのに、その上倫子さんまで担いでいくのはすごく大変でしょう」
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