猫系男子の甘い誘惑
 重なった唇を一度離して、倫子の方から角度を変えて口づける。唇を開いて佑真の下唇を挟み込んだ。軽く吸い上げると、驚いたように彼の身体が硬直する。

 下唇を舌でなぞりながら上目遣いに見上げれば、佑真が息を呑んだ。次の瞬間には、背中に腕を回されて、互いの身体が密着するくらい引き寄せられた。

 誘うように唇を開く。佑真の目に映る自分の表情に欲望の色が浮かんでいるのがわかた。それだけで、背筋に痺れるような快感が走る。

 開いた唇の間から、佑真の舌が入り込んでくる。音をたてて絡められたそれに、身体の奥がきゅうっとなるのがわかった。手を伸ばし、佑真の首に回して彼の顔を引き寄せる。

「倫子さ……」

 倫子の名を呼ぶ佑真の声は途中で途切れた。そこから後は、言葉もないままに夢中で舌を絡め合う。舌の脇をなぞられて、小さく喘ぐと主導権を握った佑真がにやりとした。

 主導権をどちらが持つのか、攻防戦が始まる。佑真の首の後ろに回した手を上げ、髪を撫でると、背中に回された腕に力がこもった。

 きっとどちらが主導権を持ってもかまわないだろうに、最初から全てをゆだねてしまうのはなんだか悔しいような気がした。

 小さなプライドを捨てきれないのが悪いところだとわかっていても、捨てることができない。それでも、今はそれでいいのではないかと素直に思えた。少なくとも、佑真はそんな倫子がいいと言ってくれるのだから。
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