猫系男子の甘い誘惑
「はあ?」

(な、何を言ってるの、この子は――!)

 復讐なんて、考えたこともない。だって、一回だけ見たあの子は倫子より若くてすごく可愛かった。可愛げのない倫子より、誰だってあの子の方を選ぶ。

「べ、別にいいわよ、復讐なんてしようと思ってないし」

 ――復讐なんて考えたこともなかったけど、彼の言葉が倫子の中の何かをかき乱したのもまた事実だった。

 本当に、復讐しなくていいのだろうか。大学を卒業してすぐ付き合い始めた敦樹とは、歴代彼氏の中で一番長く付き合った。

 二十七歳の誕生日を迎えた日には、プロポーズされるのではないかと、密かに期待していたし、いつそういう話になってもいいように貯金だって頑張った。

 ――それなのに。

(やだやだ、こんな考えが浮かんでくるなんて……!)

 自分の頭に浮かんだ言葉を追い払うように、倫子は首を振る。

「……やめてよ」

 佑真から一歩離れるように身体の位置をずらし、目をそむけた。復讐なんて、するべきじゃない。そんなことをしても、誰も幸せになんてなれない。
 
(私は、見苦しいことなんてしない。ちゃんと、綺麗に別れたんだからそれで終わらせないと)

 だが、倫子の考えを見透かしたかのように佑真は笑う。

「ねえ、倫子さん――こういう時、自分に正直になってもいいんじゃないかなあ? 俺は、復讐したっていいと思うし、むしろ復讐すべきだと思うんだけど」
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