猫系男子の甘い誘惑
 日本人の平均より少し小柄。胸のサイズは大き過ぎず小さ過ぎず――いや、やや小さい寄りだ。いまいちはっきりしない目元に、小さめの唇。化粧でどうにか人並みにはなれても、美人には程遠いことくらいわかっている。

「倫子さん、綺麗って、顔立ちのことだけじゃないんだよ?」

 意外にも真面目な顔をして、佑真はそう言い放った。

「たしかに今の倫子さんはすごくブスだと思う。でもそれって、倫子さんが醸し出している雰囲気の話であって、いくらでも綺麗になるんだよ、本当は」
「……どうかしら」

 疑いの眼差しで、倫子は佑真を見る。先ほどまでのへらへらとした雰囲気は消えていて、倫子が今までに見たことのないような真面目な表情をしていた。

「なれる。俺が保証する。だって、倫子さんを抱かせてもらったのに、約束守れないって俺ひどいやつみたいじゃん」
「いや、避妊してくれてたなら別にいいんだけどね? 処女ってわけでもないんだし、昨夜のことはお互い忘れるってことでも」
「やだ」

 何だかめんどくさくなって話を終わらせようとしたけれど、佑真はその手には乗らなかった。逃がすまいとしているかのように、ぎゅっと倫子の腕を掴む。

「俺、昨日、倫子さんと約束したもん。結婚式は三か月後でしょう? だから、それまでの時間を俺にちょうだい。倫子さんにあんな顔はさせたくない」

(あんな顔ってどんな顔よ……)

 その疑問は残ったけれど、それを佑真に問いただすわけにもいかず、倫子はおとなしく口を閉じることにした。
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