夏祭りの恋物語(2)~林檎飴の約束~
 蒼介さんが低い声で言った。どう答えていいかわからずに瞬きすると、私の目からまた涙がこぼれた。

「勝手を言って本当にすまないと思っている。美晴と付き合うまでは一人で突っ走ってこれたのに、いざ美晴を知ってしまうと、美晴なしでは走れない。美晴のところに戻って来たくて……今、本社でリーダー研修を必死で受けているんだ。隣の市の新支店の支店長候補になってる。どうにかしてその仕事に着くつもりだ。だから、もし……」

 蒼介さんがごくりと喉を鳴らした。私は涙を拭って彼を見上げる。

「もし……僕を許してくれる気があるなら、もう一度やりなおしたい」

 その言葉に嗚咽が漏れ、私は左手で口を押さえた。

「美晴?」

 蒼介さんがあわてて右手を伸ばし、私の肩に触れた。少し骨張った大きな手。懐かしくて……今でも愛おしい。

 止めどなく涙があふれてきて、私は両手で顔を覆った。私の指の間から蒼介さんが林檎飴の棒を抜き取る。

「これ、また僕のものにしても構わないかな?」

 私は顔を上げて彼を見る。伺うような、不安そうな蒼介さんの顔。いつもあんなに自信にあふれて輝いていた人が、こんなふうに私を見るなんて。

「いつ支店長になれるの?」

 私の問いかけに、蒼介さんが答える。
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