夏祭りの恋物語(3)~かき氷の誘惑~
 その背中を見送りながら、私は首に掛けたタオルで額の汗を拭いた。気温二十五度を超える夜はただでさえ暑いのに、アーケードのある商店街の鉄板の前はさらに暑い。

 もう一度汗を拭って、焼きそばをパックに詰める作業をする。これからがかき入れ時だ。

「ターマー」

 鉄板の立てる小気味いい音に混じって、章太郎の声がした。章太郎のお父さんはこの商店街の外れで写真館を営んでいるが、もう営業時間は終わったはずだ。章太郎がここにいる理由は一つ、きっと夏祭りに行くのだろう。

「ターマー。ねえ、タマってばー。聞こえてんだろ、無視するなよー」

 まるで猫でも呼んでいるかのようなその口ぶりに、私は無視を決め込み、せっせと焼きそばをパックに入れる。

「タマちゃんてば。ターマ-」

 いい加減イライラしてきて、私はコテを握る両手に力を込めた。

「うるさい。ここに猫はいないってば!」
「当たり前だろ~。俺は珠美(たまみ)を呼んでるんだから」

 ようやくちゃんと名前で呼ばれて、私は鉄板の向こうに立つ章太郎に視線を向けた。青系のチェックのシャツに膝下丈のチノパンを着た二十歳の男が、ニコニコ笑っている。ウェーブのかかった長めの茶髪が、こんな暑い日でも爽やかに見えるのは、甘い顔立ちのせいかもしれない。
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