夏祭りの恋物語(3)~かき氷の誘惑~
「別に私と行かなくてもいいでしょ」
「一人で行ってもつまんないもん」

 子どもか、おのれは!

 じろりと睨むと、章太郎が諦めたように小さく肩をすくめた。

「じゃ、これ、二つちょうだい」

 そう言って焼きそばのパックを二つ取り上げ、五百円玉と百円玉を一枚ずつ台に置いた。

「あ、うん。ありがとう」

 さっきまでしつこかった男が急に素直になったので、拍子抜けしてしまう。

「じゃあな、手伝い、がんばれよ」
「ん、ありがとう」

 章太郎がうなずいて、参道へと続く曲がり角に向かって歩いて行く。その背中が人混みに紛れそうになったとき、商店街の入り口から女の子の声が飛んできた。

「あ、章太郎くーん!」
「んー?」

 間延びした声で章太郎が振り向いて、声の主を探す。商店街の入り口で大きく手を振っているのは、鮮やかな浴衣姿の女の子。ついさっき私が思い出していた、章太郎の取り巻きグループのリーダー格の二人だ。

「章太郎くん、一緒に夏祭りに行こ?」

 私に文句を言ったときとは大違いのかわいらしい声で言いながら、二人が章太郎に近づいていく。

 なんだ、やっぱり一緒に行く相手、ちゃんといたんじゃない。なんで私なんかに声をかけてたんだろう。忙しいのをわかっててからかってただけなのだろうか。

 私はむしゃくしゃして、コテで鉄板の上の具を掻き回した。
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