夏祭りの恋物語(3)~かき氷の誘惑~
大学生になってから毎年手伝っているとはいえ、やはり今日の忙しさは尋常ではない。九時近くなって、神社に向かう人よりも神社から出てくる人の方が多くなり始めると、ようやく店も落ち着いてきた。
章太郎たちも夏祭りを楽しんでいるんだろうな。
二時間ほど前に見た浴衣姿のかわいい女の子の姿を思い出しながら、私は自分の体を見下ろした。茶色のエプロンにはソースが飛んで染みになっているし、髪もTシャツもジーパンも焼きそばの匂いがする。
惨めな気分になってため息をついたとき、店の前に人影が立った。
「いらっしゃいませ」
顔を上げて笑顔を作る。藤色の浴衣が似合う清楚な女性の手を握ったまま、連れの男性が言う。
「焼きそば二つください」
「ありがとうございます」
最後に二つ残っていた焼きそばのパックを袋に入れて差し出した。
「ありがとう」
男性が代金を払って受け取り、女性と一緒にゆっくりと歩いて行く。寄り添っているのがとても自然だ。私と章太郎じゃ、とてもあんなふうにはなれない。なりっこない。だって、章太郎は今、ほかの女の子と夏祭りを楽しんでいるはずなんだから。
目に熱いものが浮かんできて、私は顔を上げて天井を睨んだ。