きみが死ぬまでそばにいる
前に会った陸の母親と、同一人物とは思えなかった。
おっとりした優しい母親の姿はどこにもなく、目の前には憎しみのこもった目でこちらを睨み付ける女が一人いるだけだ。
彼女は更に、高ぶる感情のままに、黙りこむわたしを罵った。
「何とか言ったらどうなの? あなたが息子に色々と吹き込んでいるのは知っているのよ」
校門周辺には帰宅する生徒がまばらにいた。陸の母親がヒステリックな声をあげるので、彼らの視線は自然とこちらに集まっていく。
このままでは、明日の噂の的になりかねない。せめて人目のないところに、と思った。
「とりあえず、場所を変えませんか」
母さん、と呼ぶ声が聞こえたのは、わたしが言ったのと同時だった。
「何やってるんだよ。先輩に何するつもりなんだ?」
現れたのは、他でもない陸。
もう一月は会っていない。久しぶりに見る陸は、心なしか少しやつれたように思える。
そんな彼でも、姿を見れば心が躍る。嬉しい――と思った。
「何って、当然のことをしているまでよ。何があっても、あなた達のことは認められません」
「だから――先輩は関係ないって言ってるだろ!」
陸はわたしと母親の間に割って入り、庇うように言い返した。
不意に、わたしの中に今まで存在し得なかった感情が生まれる。
それはまるで激情のようにこみ上げて、ついには心の蓋さえも動かした。
「……椎名くんのお母さま。わたし、彼と別れるつもりはありません」