きみが死ぬまでそばにいる
犯す
 
「先輩っ……」

 困惑したような陸の声が、何度も何度も聞こえていた。けれどもそれらの一切を無視して、わたしは彼の手を引いたまま歩き続ける。

「ねぇ、先輩」

 どのくらいの間、あてもなく歩いただろうか。陸の母親の姿など、とっくに見えなくなっていた。馴染みのない景色に気づいて、ようやく我に返る。

「落ちついて下さい――一体どこに行くつもりなんですか」
「……ごめん」

 わたしは呟くように言って、足を止めた。同時に、ずっと無意識に掴んだままだった陸の手を離す。
 理性が戻ってくるにつれ、自分がしでかしたことの重大さが身に染み渡ってくる。
 言葉では取引と言いつつも、あれは脅したも同然だった――――。青ざめた顔で立ち尽くす陸の母親の目の前から、奪うように陸の手をとると、返事も聞かずに勢いでここまできてしまった。

 ああ――わたしは、なんてことを。
 こんなことをするつもりではなかった。
 わたしは、ただ。

「どうしたんですか。先輩らしくないですよ」

 強引に連れてこられた陸は、ただ心配そうにわたしを見た。
 
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