きみが死ぬまでそばにいる
陸によれば、わたしが彼の母親を脅した日以来、彼女は家にいる時はほとんどを自室に閉じこもって過ごし、息子とは顔も合わせないらしい。
加えて父も、長らく帰ってきていないとか。家の中が冷えきってしまっていることは容易に想像できた。
「そんなこと気にするなんて、先輩らしくないですよ?」
そう返してきた陸の言葉には、苦笑するしかない。
まさにその通りで、わたしは元々、彼の家庭を壊したかった。想定していた過程とは多少違えど、その願いは叶った。それなのにわたしは、何故かそれを憂えている。
当然親達への同情などない、でも彼は……何も知らなかった。何も知らずに当たり前の幸せを謳歌していた彼が、突然それをなくしてしまったらどう思うのだろうか。
「そうだよね。何言ってんだろう……」
わたしは、今急に怖くなっている。彼に恨まれることが、憎まれることが、そうして嫌われることが。
「気にしないで下さい。育ててもらった恩はあるけど……どの道、俺あんまり母親とは上手くいってなくて」
「え?」
「過保護っていうか、なんて言うんでしょうね。幼い頃から、やることは全部母親に決められてきました。習い事も塾も、遊ぶ友達も。それが嫌だって言ったら、全部俺のためだからって、言いくるめられるんです」