きみが死ぬまでそばにいる
名実共に陸の恋人になってから、しばらくは幸せな日々が続いた。
陸は母親とは相変わらずだと言う。わたし達の関係に何も言ってこないところを見ると、あの脅しが効いたのかもとも思う。
このままわたしたちは血縁を隠したまま関係を続けて、大人になって、そして……そんな浅はかな夢を見る。けれど、夢はやはり夢でしかなかった。
その日は、唐突にやって来る。
「サキちゃん、お帰りなさい」
帰宅したわたしを出迎えた祖母に、違和感を覚える。そして次の瞬間、玄関に見慣れぬ男物の靴を見つけて、悟った。
「お父さんがいらしてるわよ」
祖母はいつも、父が訪れるとそわそわと嬉しそうにする。「おばあちゃんは騙されている」――口が裂けても言えないその言葉を、わたしは飲み込んだ。
あの男のしたことを暴露してやりたい、そう思うのに、祖父母を傷つけたくないというジレンマに苛立ちながら、ふと二人はどちらをより悲しむのだろうと思った。
大切に育てた娘が、夫に一切顧みられず不幸のうちに死を遂げたことか。それとも、たった一人の孫娘が異母弟と関係を持っていることか。
きっとどちらもひどく悲しむだろう。
歪んでしまったわたしには、それくらいしか分からない。