きみが死ぬまでそばにいる
 
「紗己子、ちょっといいか」

 なるべく父の存在を無視して自分の部屋に上がろうとしていたが、私はあえなく仏間から顔を出した父に呼び止められる。

「……なに?」

 仏間に入るよう促されて渋々従うと、父は後ろ手に扉を閉めて、白々しくも笑った。
 嫌な予感はこの男の靴を見た時からずっとしている。そしてそれは多分――当たる。

「最近、元気にしてるか」
「……うん」
「お前も年頃だ。その、なんだ……彼氏なんかはいるのかと思ってな」

 わざわざ呼び止めて偶然を装うには、明らかに不自然な話題だ。
 陸の母親と繋がっているのだから当然だけれども、父はおそらく私と陸との関係を知っている。
 しかし同時に自分の不倫も認めることになるので、何と切り出したものか悩んでいるんだろう。笑える、今更。

「彼氏くらいいるよ? もう高校生だもの」

 祖父は留守で、祖母ははりきってキッチンに立っている。この仏間には、私の父の二人きり。会話が他の人間に聞かれることはない。死んだ母を除けば――だが。
 母の仏壇は祖母が甲斐甲斐しく世話をしているから、いつもきちんと整えられて仏間にある。今日も置かれた写真の母は笑っていた。
 
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