きみが死ぬまでそばにいる
 
 「学校が終わったら迎えに行く」と、昼休みに電話で話した祖父の声は、酷く疲れているように聞こえた。実際、祖父も祖母も昨晩からの疲労が蓄積しているに違いなかった。父方の親族で連絡がついたのは叔母のみ。それも遠方ですぐにかけつけることはできず、入院の手続きや準備は全て義理の両親である二人が済ませたのだ。
 放課後、わたしは祖父母の身体を労るという体(てい)で迎えを断ると、陸と共に病院に向かうバスに乗った。
 バスの中で、陸はほとんど話さなかった。というよりは、父が倒れたことを話してから、ずっと。
 何を考えているのか、色々想像はできたけれど、わたしはできるだけそれを考えないようにした。



 病院のロビーで陸とは一旦別れて、わたし一人で父のところに向かう。祖母と叔母が既に来ていて、父の様子を聞いた。
 集中治療室の父は、昨日と変わらず意識が戻っていない。祖母から聞いた医師の話では、未だ予断を許さない状況だという。ただ一つ、昨日とは違う情報がわたしの頭の中に残った。
 それは、父の意識が戻って、この先数日間を何事もなく過ごせば、回復の可能性がぐっと上がるということ。

「きっと大丈夫」

 祖母は何度も繰り返した。
 わたしは祖母の言葉に頷きながらも、「なんだ、助かる可能性があるのか」と思った。そんなことはとても、祖母には言えなかったけれど。
 
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