きみが死ぬまでそばにいる
 
 だから、もしもこの日、陸がわたしの前に現れなかったら。
 わたしはいつか、部長を忘れ、新しい恋をして、穏やかな人生を歩んでいた可能性だってあったはずだ。



 長谷部先輩が新入部員の二人に、この同好会のことやこれからのことを説明している間、わたしは特にすることもなく、隣でただ相槌を打つだけ。
 そんな風に暇をもて余していたので、部室の扉がノックされた時、わたしは真っ先に立ち上がった。

「はーい、どうぞ」

 本当は別に、訪問者を立って出迎える必要なんてなかったのに。おかげでわたしは、不意打ちを食らったのだ。

「遅くなって、すみません。旅行研究同好会に入部したいんですが」

 扉を開けると、そこには忘れかけていた弟が立っていた。
 真新しかった制服も身体に馴染んで、それほど時間が経ったわけでもないのに、前に比べると随分凛々しくなった。
 そして――その手には、しっかりと入部届けを持って。

「えっ……入部希望? 本当に?」

 後ろで、長谷部先輩の驚いたような声が聞こえる。
 わたしは一瞬真っ白になった思考を徐々に取り戻して、なんとか言葉を紡いだ。

「こ……この前校門で会った子だよね。ありがとう、来てくれたんだ?」

 その時のわたしの作り笑顔は、今までで一番ひきつっていたに違いない、最低の出来。
 だけど彼はそんなことは少しも気にしないかのように、わたしに眩しい笑顔を向けてくる。
 
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