きみが死ぬまでそばにいる
祖母たちには適当な理由を告げて、わたしはロビーで待つ陸に会いに行った。
自分の感情は出さないように、ただ事実だけを淡々と話す。
陸は聞き終わると、「そうですか」と言ってわたしを見、首をかしげた。
「もしかして……父さんと何かありましたか?」
「え?」
わたしの中の動揺を、陸に見抜かれるとは思わなかった。急に父が倒れたから、父にわたしたちのことが知れてしまったのは話していなかったのに。
「例えば……何か、言われたとか」
「……どうして?」
「母さんが知ってる以上、父さんに話が伝わるのは予想できますよ」
陸は淡々と言った。彼の母親への脅しは、父への口止めには不十分だった。何もかもが甘い――わたしは。
陸と一緒にいたいならば、何がなんでも知られてはいけなかったのに。
「……あの人、わたしたちのこと引き離す気みたい」
「でしょうね。でも父さんは倒れた。当分は何もできないと思う」
「でも」
きみはあの男の本性を見ていないから。
あの男の狡猾さも冷酷さも知らずに、ただ愛されて育ったから、そんな楽観的なことが言える。
「……大丈夫ですよ。先輩は何も心配しないで」
何が大丈夫なのか、ちっとも分かりはしなかった。けれど、陸が久しぶり笑いかけてくれたから、わたしは小さく頷くしかない。
そして陸は、わたしに言った。
「俺を病院につれてきてくれてありがとう。これで息子としての義理は果たせました」
その言葉の意味はよく分からなかった。