きみが死ぬまでそばにいる
その後、父が倒れてから一週間以上が過ぎた。
父の意識は依然戻らず、楽観視はできないと医師は言ったが、集中治療室から一般病棟へと病室を移した。とりあえず検査の数値は安定しているから、とのことで、祖父母は喜んでいた。
元気だった頃のように回復できるかは分からないが、父は日に日によくなっている。それに比例するように、わたしの不安は増すばかりだった。
もしも、父の意識が戻ってしまったら?
このまま何事もなく、父が回復してしまったら?
考えるだけで恐ろしい。あの悪魔のような男が戻ってくる。
「――先輩、聞いてます?」
「えっ……ごめん、何?」
怪訝そうな陸の声に我に返ったのは、いつもの駅までの帰り道。電車の音がすぐ近くにに聞こえる、人や車の往来の多い駅前でのことだった。
「最近、なんだか上の空ですね」
「そうかな……ごめんね」
「別に謝らなくてもいいですけど……」
ここ数日は、いつも駅前のバス停で陸と別れる。毎日わたしが、父の見舞いに行っているからだ。
「ねぇ、今日は一緒に行かない?」
断られるだろうとは思ったが、念のために声をかけてみる。しかし、今日も予想が覆ることはなかった。
「やめておきます」
「一般病棟にも移ったし、叔母さんも今は家に帰ってるよ。今日はおばあちゃんもいないし」