きみが死ぬまでそばにいる
終わる
ただ、殺してしまおうと思った。
病に倒れ身動きすらできない今なら、この男は抵抗すらできずにわたしに殺されるだろう。わたしと母を苦しめた当然の報いだ。だから、躊躇することなんてない――と。自分を納得させる理由としては、十分だった。
けれども次の瞬間、わたしは一度伸ばした手を咄嗟に引く。
「先輩……何してるんですか」
振り返れば、扉のところに明らかに戸惑ったような陸がいた。
「なんだ……びっくりした……ノックくらいしてよ」
「しましたよ。でも反応がなかったから」
陸はわずかに苦笑すると、後ろ手で扉を閉めた。
作った笑顔は多分見抜かれている、ような気がする。
「本当に? 全然気づかなかったよ。来るなら言ってくれたらよかったのに。気が変わったの?」
「……先輩の」
陸の視線が泳ぐ。その先には、意識を失ったままの父がいた。
「様子が変だったから、心配になって追いかけて来たんです」
ぽつりぽつりと、呟くように言う陸は、どこかわたしの出方をうかがっているように見えた。
彼がいつから見ていたのかは分からない。でも、おそらく気づいているんだろう。わたしが何をしようとしているのか。
「……わたしは、この男に目覚めてもらっては困るの。きみなら、分かってくれるでしょ。それとも――お父さんが大事?」
「……よく、分かりません。でも、自業自得だと思う」