きみが死ぬまでそばにいる
どこか浮かなかった陸の表情が不意に明るくなる。そして、晴れ晴れとしたように言った。
「……もともと、水泳に戻る気はないんです。やりきったっていうか」
水泳部には断りを入れる、と言って去っていた陸。その後ろ姿を眺めていると、隣で泉が意味ありげに微笑んだ。
「椎名くんって、紗己子になついてるよね」
「そんなことないでしょ、別に」
泉の鋭い言葉に内心どきりとする。
「あるよぉ。だって紗己子、椎名くんにすごく優しいもん。そんなこと言って、気に入ってるんじゃないの? 爽やかだし、結構かっこいいし」
泉はなかなかわたしのことをよく観察している、と思った。
親切で優しい先輩、それが陸の前でのわたしの役。もちろんいつまでも演じ続けるつもりはない。信用させて油断させて、最後に全てを暴露する。そうしてどん底に突き落としてやるのが、わたしの復讐のシナリオ。まあ、陳腐だけれど。
実際のところ、確かに陸は多少わたしになついてくれている感じはあるが、単なる先輩後輩の域を出ていないように思う。
わたしの目的を果たすためには、もっと仲良くなる必要がある。裏切られた時のダメージは、その人間との親密さに比例するから。
「そんなんじゃないってば、もう」
「本当? 違うならいいんだけど、椎名くんじゃなくても、好きな人ができたら教えてね。絶対に協力するから」
泉はどこまでも無邪気だった。
わたしの全てを知ったら、この子はきっと軽蔑するだろう。